本を紹介させていただきます。

『ルーブルを揺るがした無名の巨匠~反骨の画家・遠藤剛熈と私』(文芸社)という本です。
仕事を定年退職した作者が、京都の私設美術館で高齢の洋画家と出会い、その作品や人柄に魅せられてボランティア活動をしてきた3年間の記録です。
まず驚かされるのは、日本にこんな素晴らしい洋画家がいたという事実です。老画家は京都で生まれ育ち、東京の武蔵野美術大学で学んだ後に帰郷、関西一と言われるまでになる美術予備校を立ち上げました。その一方で、30年以上、名刹南禅寺に通い詰め、現場で描くことにこだわって、多くの油彩画を描いてきました。老画家はセザンヌやゴッホなどの後期印象派の画家たちに学び、その色彩や技法を習得しました。若い頃の作品には、確かに印象派の影響がうかがえますが、京都の自然を描いた作品群は、見事に日本の色をとらえ、古都の自然を描いた作品になっていきます。
美しい色彩と力強い筆致で描かれた作品は、小林秀雄、武者小路実篤、加藤周一、粟津則雄ら著名な評論家をはじめ、多くの美術史家から絶賛されました。その結果、2002年、ルーブル美術館で開かれた「ナショナル・デ・ボザール展」に日本代表単独招待画家として招かれ、喝采を浴びました。
それほどの画家がなぜ無名なのか。それは老画家が名利を厭い、作品をほとんど発表しなかったからです。彼は、画壇からの誘いを断って、いかなる画壇にも属さず、作品を売却することもほとんどありませんでした。老画家は佛教大学で仏教学を学び、修行僧のような純粋な志を持って絵を描いてきました。彼の目的は絵を極めることではなく、真理を探究することであり、絵はその方便だと豪語するのですから驚きです。また、絵を描くことは、世間に認められず、極貧の中で死んでいった後期印象派の画家たちへのオマージュを捧げることだと言うのですから、呆然とするばかりです。
そんな老画家に魅せられて、作者は毎月10日間程、東京から京都へ通い、美術館の雑事に関わってきました。彼は、たった1人で、のべ300坪という美術館の床にワックスをかけ、トイレの清掃やエアコンの掃除などを行いました。また、老画家が作品を制作に行く際に車を運転して、制作のサポートをしました。作品の展示替えや交流のある美術館への挨拶回りなどもしていました。交通費も滞在費用もすべて自前ということで、その情熱には圧倒されるばかりです。老後の生き方として、こんなこともアリだなと参考になります。
91歳になった老画家は、現在も現役で絵を描いていらっしゃいます。近年はグリザイユ技法で花を描いており、原点に回帰する姿勢が感じられます。
本書を読んで、京都にある遠藤剛熈美術館を訪れてみてはいかがでしょうか。自費出版のようなので、ISBNを記しておきます。書店注文やネット購入にお役立てください。ISBN978-4-286-26905-4




